downloadGroupGroupnoun_press release_995423_000000 copyGroupnoun_Feed_96767_000000Group 19noun_pictures_1817522_000000Member company iconResource item iconStore item iconGroup 19Group 19noun_Photo_2085192_000000 Copynoun_presentation_2096081_000000Group 19Group Copy 7noun_webinar_692730_000000Path
Skip to main content

トリリオンセンサーがつくる「Abundance(潤沢な世界)」が地球規模の課題を解決する
神永 晉=SPPテクノロジーズ エグゼキュティブシニアアドバイザー 戦略会議議長

TSensors(Trillion Sensors)プロジェクトは、年間1兆個のセンサーを使用する社会「Trillion Sensors Universe」を目指して、2013年に米国でスタートした。年間1兆個とは現在のセンサー需要の100倍、世界の70億人が年間142個ずつ使う規模である。

 Trillion Sensors Universeでは、医療・ヘルスケア/農業/環境/社会インフラなどあらゆる分野がセンサーで覆われる。これらのセンサーはネットワークに接続されてビッグデータの適用範囲を拡大し、社会や生活を大きく変えることになる。

 これは「Abundance1)(潤沢な世界2))」によって、飢えの解消、医療/ヘルスケアの向上、清潔な飲用水の供給、大気汚染防止、クリーンエネルギーの確立などの地球規模の課題を解決するという提言1)、2)を、実現しようとするものである。そこでは、M2M(Machine to Machine)、IoT(Internet of Things)、IoE (Internet of Everything)の潮流に合わせて、全てのものがネットワークに繋がっていく。

 Abundance(潤沢な世界)は、20年後の2033年頃に実現すると考えられている(図1)。だが、そのために必要になると予測される45兆個のセンサーの多くは、まだ開発されていない。一方、過去のセンサー開発は、試作から量産まで30年を要している。このままでは新しいセンサーの製品化に時間を要し、Abundance(潤沢な世界)の実現に遅れを来すことになる。
図1●Abundance(潤沢な世界)の実現
出典:Janusz Bryzek:“TSensors for Abundance, Internet of Everything and Exponential Organizations”, TSensors Summit Munich(2014)

 バイオ、医療、ナノテク、ネットワークとセンサー(2033年までの20年間で45兆個)、
3Dプリンター、コンピューターシステム、人工知能、ロボティクス等の指数関数的テクノロジーによって、
供給が需要を上回るAbundance(潤沢な世界)を実現して、地球規模の課題を解決する。TSensors(Trillion Sensors)
プロジェクトの目的は、そのために新しいセンサーの開発サイクルを加速することにある。


TSensors Summitでセンサーの未来像やロードマップを作成

 年間1兆個を超えるセンサーの供給について、予測の多くは10年後となる2020年代前半の実現を示唆している(図2)。その実現に向けた産学官連携の取り組みを推進する議論の場が「Trillion Sensors Summit(以下、TSensors Summit)」である。2013年10月23日~25日に米Stanford Universityで開催された第1回のTSensors Summitでは、「Trillion Sensors Universe」を実現する「TSensors Roadmap」の作成が合意された。
図2●トリリオンセンサービジョン
出典:Janusz Bryzek:“TSensors for Abundance, Internet of Everything and Exponential Organizations”, TSensors Summit Munich(2014)

 TSensors Roadmapでは、まず、年間1兆個を超える大量のセンサーの新しい用途(TApps)の未来像を考え、その開発期間を短縮するための目標を明確にする。次に、センサー用途とそれを支える基盤技術のロードマップやTSensorsを支える「TSensors Supply Chain」を構築するために、大学と研究開発プログラムの再構築、先端研究組織からのベンチャー起業、センサーメーカー/ユーザー/基盤企業/大学/研究機関の間の協業、政府助成ならびに資産家による投資、競争奨励等を促進する。

 TSensors Summitは、2013年3月に米University of California(UC)Berkeleyで開催された「Trillion Sensors Universe Workshop」に端を発するもので、その後、第1回となるTSensors Summit 2013が前述のように2013年10月にStanford Universityで開催。続いて2014年2月にTSensors Summit Japan 2014が東京で、9月にはTSensors Summit Munichがドイツ・ミュンヘンで欧州初めてのサミットとして開催された。


12月8日から東京で再びTSensors Summitを開催

 この11月にはTSensors Summit San Diegoが米国で開催されており、12月8日~9日には東京でTSensors Summitが再び開催される。2015年には、アラブ首長国連邦のアブダビ、韓国、中国、そして米国での開催が計画されている。

 第1回のTSensors Summit 2013では、提示された約300の用途に基づき、要員育成のための教育、最大の経済的効果をもたらす9種類の用途(TApps)と20種類のセンサー技術プラットフォームとの相互関連付け(図3)、その用途を実現するための6種類の基盤技術について、ワーキンググループの方向性が示唆された。
図3●トリリオンセンサーアプリケーション
図3●トリリオンセンサーアプリケーション
出典:Janusz Bryzek:“TSensors for Abundance, Internet of Everything and Exponential Organizations”, TSensors Summit Munich(2014)

 この第1回TSensors Summitに参加した企業は、30社以上に上る。米国からはCisco Systems社、Hewlett-Packard社の研究部門であるHP Labs、Motorola Mobility社などの大手IT(情報技術)企業、さらにFairchild Semiconductor社、Intel社、Kionix社、Rambus社の研究部門であるRambus Labs、Texas Instruments社、Honeywell社。欧州からはドイツRobert Bosch社、伊仏合弁のSTMicroelectronics社、アジアからは韓国Samsung Electronics社、台湾Asia Pacific Microsystems社などだ。このほか、Stanford University、California Institute of Technology、UC Berkeley、UC San Diego、欧州のCEA-Leti、IMEC、Fraunhofer、VTTなど、10を超える有力な大学・研究機関が参加した。

 個人では、TSensors推進者のJanusz Bryzek氏をはじめ、Al Pisano氏、Kurt Petersen氏、Roger Howe氏、Mefran Mehregany氏、Steve Walsh氏、Jiri Marek氏、Roger Grace氏といった著名人がこぞって参加。全世界から集った50数名の専門家による講演とともに、総勢250名の参加者による議論が展開された。


仕掛け上手な欧米関係者の熱気に圧倒されずに日本の技術で

 筆者は、唯一の日本人講演者として、第1回TSensors Summit初日の10月23日と最終日の25日に登壇し、日本のプレゼンスをアピールした。日本からの参加者がほとんど見られなかった中で、欧米の関係者の熱気に圧倒される一方で、いつものことながら、技術的な内容は日本の方がはるかに高いレベルのものを持っていることを改めて痛感した。

 欧米関係者の仕掛けが上手であることは相変わらずで、彼らのエネルギーを日本に持ち込んでクロスボーダーの協業を進めることが肝要という率直な印象を持った。それと同時に、日本の関与の少ない状況に危機感を感じたことも事実である。

 2014年2月20日~21日に東京で開催された第2回TSensors Summitは、推進母体のTSensors Summit, Inc.と日経BP社の共催で、参加者300名超。米国からの講演者に加えて、日本の各分野からの講演者も多数登壇し、パネルディスカッションも好評を博した。

 2014年9月15日~17日に開催された第3回TSensors Summit(ドイツ・ミュンヘン)は、TSensors Summit, Inc.とFraunhofer EMFT(ミュンヘン)の共催で、参加者約150名。地元州政府大臣やEU(欧州連合)代表部が、センサー関連の投資政策を発表した。主として、自動車応用、セキュリティ、3Dプリンティング、通信プロトコル、ヘルスケア等についての問題提起と議論がなされた。

 第4回TSensors Summitは2014年11月12日~13日、TSensors Summit, Inc.とUC San Diegoの共催で米国サンディエゴにおいて開催され、約200名が参加した。2014年12月8日~9日には、第2回と同じくTSensors Summit, Inc.と日経BP社の共催で、東京で再び開催される。日本の関係者の講演が多数予定されており、日本主導で活発な議論が交わされることが期待される。


望まれる日本の主体的な関与

 このTrillion Sensorsの実現に中心的な役割を果たすのが、ここ20年ほどにわたって目覚ましい発展を見せ、その関連産業が世界的な規模で拡大しているMEMS(微小電気機械システム)である(図4)。
図4●MEMS比率の拡大
出典:Janusz Bryzek:“TSensors for Abundance, Internet of Everything and Exponential Organizations”, TSensors Summit Munich(2014)
[画像のクリックで拡大表示]

 筆者は、MEMS特有の微細加工技術の開発・装置化に端を発する事業化を推進し、加速度センサー、ジャイロ等のデバイス開発が、車載、スマホ等のアプリケーションを創出し、MEMSセンサーの利点を生かしたワイヤレスセンサーネットワークが広範囲の応用分野に展開される過程に深く関わってきた。センサーがネットワークにつながることによって、M2M、IoT、さらにIoEの潮流に歩調を合わせて爆発的な用途拡大が予測されている中で、新たなニーズ、アプリケーションの出現が必須であることを強く感じている。

 TSensorsプロジェクトの世界的な動きに日本が主体的に関与することにより、日本の技術・ニーズが、地球規模の課題解決に大きく寄与することは間違いない。エネルギー、環境、安全・安心、健全な生活等の分野で、センサーをコアとした新産業を国内に創生し、全世界へ貢献するダイナミックな動きを関係者が一丸となって推進することが望まれる。
■参考文献

    (1) Peter H. Diamandis and Steven Kotler: “Abundance”, Free Press,(2012)
    (2) ピーター・H.・ディアマンディス,スティーヴン・コトラー,熊谷玲美訳:「楽観主義者の未来予測(上下2巻)」,早川書房(2014)
    (3) Janusz Bryzek: “TSensors for Abundance, Internet of Everything and Exponential Organizations”, TSensors Summit Munich(2014)