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2022-09-26

米国投資銀行シニアアナリストが語るシリコンサイクルを通したEDA市場の成長

米国投資銀行Needham & Company, LLCのシニアアナリストであるCharles Shi氏が、今年SEMICON Westと併催された2022 Design Automation Conferenceでされた講演は大変興味深いものでした。「EDA Powers Through Semiconductor Cycles」とのタイトルの下で示された、電子システム設計(ESD)エコシステムの明るい見通しについて、講演後にShi氏にお聞きしました。

Smith:先日の講演では、EDAはシリコンサイクルの下降期においても成長するとの楽観的な見方をされました。その場合でも、企業がとるべき、あるいは備えるべきステップはありますか。

Shi氏:EDAは半導体市場が下降しても成長を続けるでしょう。研究開発は、半導体メーカーにとってコスト削減を最後まで避けたい場所です。市場下降期に新しいチップの研究開発を中断してしまうと、いずれ訪れる上昇期のチャンスを逃してしまうからです。しかし、今度の下降期は、これまでの不況より長びく可能性があります。

これまでは、シリコンサイクルの下降期はマクロ経済の不況とリンクしないのが普通でした。欧米で景気後退があっても、しばしば中国などの新興国市場の成長継続によって相殺されたからです。しかし今度は、半導体の不況とマクロ経済の不況が重なる可能性が高そうです。インフレと、新型コロナウイルスと戦うために各国政府が広範に実施した金融・財政刺激策の後遺症がその原因です。

今回めずらしいのは、中国経済が世界と同期して悪化しているように見えることです。EDA業界が悲観的になる必要はありませんが、マクロ経済と業界の両方の逆風が重なった大嵐となる可能性があるため、状況を注意深く見守る必要はあります。とはいえ、2008年から2009年にかけては、深刻な不況と半導体市場の下降期が重なりましたが、EDA企業はそれでもある程度のプラス成長を達成しています。今回の不況が最悪のシナリオとなった場合でも、EDA企業はうまく乗り切れると信じています。ただし、大企業も中小企業も、少しシートベルトを引き締めておく方が賢明でしょう。

Smith:半導体分野で指摘されたような企業統合が、EDAでも進むとお考えですか。

Shi氏:EDA業界は企業統合の結果、4つの大手プレーヤーと多数の小規模プレーヤーに落ち着いています。私は、EDA業界はすでに可能な統合をすべて終えたと見ています。結局のところ、顧客は競争と選択肢を求めているのです。この分野でこれ以上の統合が進むとは考えにくいです。私は、この業界は小規模なEDA企業の活気あるコミュニティを維持する必要があると感じています。なぜなら、イノベーション、とりわけ破壊的なイノベーションは、小さな会社から生まれる傾向があるからです。EDA業界にダイナミックなスタートアップシーンがあることは、大手と中小の両方のEDA企業にとって有益なことです。

大企業はいわゆるタックイン買収を通じて、中小企業の興味深い製品アイデアや優秀なエンジニアを取り込み、企業のイノベーションを持続することができます。中小企業は、上場以外にM&Aという出口戦略も選べ、既成概念にとらわれない発想や斬新なアイデアで業界を活性化することができます。EDAは高度に統合された業界だと思われているかもしれませんが、新興企業の活力と健全性が、業界の長期的な成長にとって非常に重要だと私は考えています。

Smith:新しい市場やアプリケーション領域への進出についてはどうでしょうか。

HSShi氏:具体的な市場やアプリケーションについては、技術的な専門家の方がいらっしゃるので、このご質問には具体的な話は差し控えることにします。しかし、システム企業がチップ設計を行うようになり、業界は「売るための設計」から「使うための設計」へと移行していることから、システム設計とチップ設計は融合しつつあるのではないかと考えています。

業界では、設計とテクノロジーの協調最適化(DTCO)、ハードウェアとソフトウェアの協調最適化ということが言われています。現在のトレンドからすると、将来的には、エレクトロニクスシステムからシリコンプロセスまで、より広範な協調最適化がされる可能性があります。これが新時代のデジタルツインと呼ばれるコンセプトです。このような貫通型の最適化に向けて、EDA企業はチップ設計だけでなく、エレクトロニクスシステム全体の設計へと拡大することが求められるようになるでしょう。

大企業はこのトレンドに注目しており、そのための体制を整えています。例えば、SiemensはMentor Graphicsを買収し、自社の工業デザインおよびエンジニアリング・ソフトウェア事業を補完しました。Ansysは現在、エンジニアリング・ソフトウェアとEDAの両方を手がけていますが、Synopsysとの非公式な提携も形成しつつあるようです。

さらに、Cadenceは、半導体以外の分野のエンジニアリング・ソフトウェア企業を買収し、同社の傘下に統合的なシステム設計ビジネスを構築することを目指しています。業界の状況がどのように変化するかはこれからですが、トレンドは明確になりつつあります。

Smith:EDAとシリコンIPのエコシステムとパートナーシップは、不況に耐えられるほど強固なものだとお考えでしょうか?

Shi氏:EDA企業は一般的に、景気下降期を乗り越えるだけの強さを備えていると思います。EDAとIPでは経済性が若干異なるため、設計IP企業の場合は多少の弱さが見られるかもしれません。

EDAと比較すると、IPの収益性は企業によって様々で、提供するIPの規模や拡張性によって異なります。米連邦準備制度理事会(FRB)の金融引き締めにより、金融が緩和されていた過去10年間に比べ、投資家の不採算事業への投入意欲は減退しています。

繰り返しになりますが、IP業界は、規模に対するリターンが増大するビジネスモデルに取り組み、拡張性のあるIP製品に注力することが重要です。IPビジネスは、両者の本質的な違いはあるにせよ、もっとEDAのビジネスモデルに近づくべきです。

そうは言っても、IP業界の展望は楽観視しており、今後も2桁成長が続くと考えます。なぜなら、IPの価値提案は素晴らしいもので、IPが提供する設計ブロックにより、チップ設計者はベーシックな部分の設計のくりかえしから開放され、差別化設計に集中できるようになるからです。しかし、個々の企業、特に収益性の低い中小企業は、今後数年間のマクロ環境と財務状況が過去10年間とは大きく変わる中で、製品の拡張性と事業の収益性を重視する戦略をとるべきでしょう。

Smith:パッケージングとチップの協調設計は、さまざまな理由から容易ではありません。この2つを結びつけるために、何をすべきか推奨はありますか?

Shi氏:推奨ということではありませんが、ファブレス企業、ファウンドリ、メモリチップメーカー、OSATなど、複数の当事者間の調整が、チップとパッケージの協調設計を進める上での課題だったようです。

ファウンドリもこの問題に気づいていて、10年前から最先端のパッケージングとテストを内製化する流れになっていると思います。もうひとつ例をあげると、Intelは最近、システムファウンドリがウェーハファウンドリに取って代わると述べています。

Chip Design少なくとも製造サイドのエコシステムでは、ウェーハプロセスとパッケージングがひとつ屋根の下にある方が業界にとってプラスであることが明らかになっています。ですから、30年間にわたり調整メカニズムを完成させてきたファウンドリ~EDA~IPの確立されたエコシステムが、チップとパッケージの協調設計推進による差別化に踏み出したのです。

時折、ファウンドリが3D ICの採用について不満を表明しているのを耳にしますが、ファブレスの顧客から需要はある訳ですから、既存のファウンドリ~EDA~IPのエコシステムが問題を解決できると楽観的に考えています。これは、製造分野でチップとパッケージの製造が緊密に統合されつつあることと似ています。設計分野においても、チップ設計とパッケージ設計の緊密な統合こそが進むべき道です。

もちろん、EDA業界はツール間の相互運用性を解決しなければなりませんし、ファブレス業界では2つの設計チーム間の壁を取り払う必要があるでしょう。しかし、どちらも今に始まった問題ではありません。最終的には、人々はすべきことを成し遂げ、問題を解決することができるでしょう。

Smith:システム会社が自前のチップを作る動きは長期的な戦略でしょうか、それとも短期的戦術でしょうか?

Shi氏:長期的な戦略です。その根底には、ムーアの法則の減速があります。

ムーアの法則の減速は、まずCPUのような汎用チップの進歩において現れました。かつてムーアの法則が猛烈なスピードで反復していた時代には、システム会社が独自にチップを作っても、チップメーカーのスピードには到底及びませんでした。今は、微細化による省電力化、高性能化、小面積化の改善幅が以前より小さくなり、プロセスノードの微細化の間隔が長期化しているため、汎用チップの進歩は以前と比較するとスローペースになっています。

さらに、汎用チップは通常、大量生産によるコスト最小化をするため、多くのアプリケーションをカバーすることを目指しますが、そうしたチップは各アプリケーションに対して最適な性能を発揮することができません。ハードウェアとソフトウェアの協調最適化やシステムレベルの最適化が求められる中で、汎用チップは専用設計された自社製チップに取って代わられる可能性が高まっているのです。ファウンドリ~EDA~IPのエコシステムによって、システム会社が設計を行うことは容易になりました。これは一時的な流行でありません。

何年も前ですが、ムーアの法則の減速により、他のチップメーカーがTSMCに追いつくことが容易になるだろうと言われていました。現実はその逆となり、多くのファブが競争から脱落しました。しかし、この誰もがキャッチアップできるようになったというのは、チップ設計者にとっては、おそらく真実の言葉だと思います。半導体の歴史の初期には、システムの販売者がチップを設計していましたが、興味深いことです。歴史は一巡したのです。

Smith:チップ設計の民主化というのは、キャッチフレーズ以上のものだと思いますか?

Shi氏:単なるキャッチフレーズではありません。たしかに誰もが嫌う派手な激励スピーチのように聞こえます。しかしチップ設計では、ムーアの法則が減速したことで、汎用コンピューティングからドメインスペシフィック・コンピューティングへの移行が始まっているのです。そのドメインを一番よく知っているのは、実際にシステムを開発している企業です。

EDA汎用チップメーカーがシステムを開発しているわけではありません。それを行っているのはシステム会社です。システム会社にはチップ設計を内製化する動機があるだけでなく、それをファウンドリ~EDA~IPのエコシステム全体がバックアップしているのです。

こうしたシステム会社の多くには、チップ設計に投資する資金力があります。チップ設計業界は、今後さらに統合されることはなく、むしろ分散化していくと思います。現在の大手半導体メーカーからでさえ、カスタムデザイン製品の話を聞くことが多くなるでしょう。彼らもまた、ドメインスペシフィック・コンピューティングの方向へ進んでいるのです。しかし、最終的には、システムを開発するものが、チップを設計するようになると思います。そこに至るまでには時間がかかるかもしれませんが、現在のトレンドからすると、「もし」ではなく「いつ」の問題であると言えます。

Smith:CHIPS法は、米国内の最先端半導体製造の再興に影響をもたらすでしょうか。

Shi氏:この問題は、Intelが自らを立て直すことができるかどうかということと密接に関係しています。客観的に言えば、TSMCが米国内で最先端の半導体製造工場を建造中です。

しかし、政府の立場からすると、米国内での製造能力だけでなく、米国内での研究開発能力も欲しいのだと思います。私の見解では、米国が国内で生産能力と研究開発能力を両立できるかどうかは、Intelが立ち直り、リーダーシップを取り戻せるかどうかにかかっています。これは大きな賭けです。うまくいくことを願いますが、政治家が期待するような結果になるかについては慎重な見方をしています。政府主導の産業政策については、特に半導体の分野では、世界が十分な失敗例を示しています。米国が欧州や中国から学び、CHIPS法の資金を賢く使えることを期待しています。

Smith:EDAの起業家にアドバイスをお願いします。

Shi氏:製品、そして製品の拡張性にフォーカスすることです。独創性をもって、素早く行動し、既成概念を壊していくことです。ご自分で考えている以上に、EDA業界の長期的な健全性は、皆さんご自身にかかっているのです。

 

Charles Shi氏について

Charles Shi氏は、2019年にNeedham & Companyに入社しました。2021年にリサーチアナリストとなり、半導体と半導体製造装置を担当しています。Needham入社以前、Shi氏はApplied Materialsに6年間在籍し、金属蒸着製品部門のグローバルプロダクトマネージャーを務めた後、同部門のファウンドリーアカウントを担当するビジネス開発マネージャーに就任しました。カリフォルニア大学バークレー校で材料科学・工学の博士号とMBAを、清華大学で学士号を取得しています。

Robert(Bob)Smithは、SEMI技術コミュニティであるESD Allianceのエグゼクティブ・ディレクターです。