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「国家産業戦略2030」が示すドイツおよび欧州の産業政策指針

 

SEMI Europe アドボカシー/パブリックポリシー担当シニアマネージャー エミール・デミルカン 2019年4月11日

 

 

今年2月にドイツは「国家産業戦略2030」を発表し、これによりドイツおよび欧州の産業政策に対する戦略的指針を定めました。この戦略に対する欧州ならびに海外からの反応は様々です。関係者の全てが認めているのは、戦略が推奨するアプローチは「通常通りのビジネス」とは異なるもので、EU加盟国が果たす役割の大変更を求めているという点です。本稿ではこの文書を欧州エレクトロニクス製造産業の視点から分析し、産業界、学界、政策担当者に向けて、キーポイントを以下のようにまとめました。

 

国家産業戦略2030の欧州エレクトロニクス製造業にとっての意味

国家産業戦略2030(以下「戦略」とします)この戦略は、グローバリゼーション、加速するイノベーション、保護主義の台頭という時代にあって、EUとその加盟国の影響力を高めることで、欧州産業の拡大と繁栄を目指し、同時にEU市場経済の原則も守ろうとするものです。その主たる目標は、欧州の国際競争力と産業におけるリーダーシップを確保し、また製造業を強化することで、ドイツの製造業がGDPに占める割合を現在の23.4%から2030年までに25%へ引き上げることにあります。(EU全体では、2030年までに20%に引き上げる目標を提案。)

「戦略」は、自由市場と活発な競争の大きな重要性を強調するものの、市場原理では市場経済を守り、イノベーションを持続し、競争力を維持することができないときは、加盟国の介入が必要な場合もありうるとしています。加盟国がより積極的な役割を果たすためのツールとしては、戦略的に重要な企業の株式を(一時的に)取得して海外からの買収に対抗することや、大規模な産業コンソーシアム設立の補助金などがあげられました。「戦略」はエネルギーコストや企業課税の低減、欧州内の協調的なビジネスフレームワークの実現にも言及しています。さらに、世界的な競争激化への対応は、加盟各国がばらばらに行うのではなく、EUとしてまとまって行動することが重要であると強調しています。

「戦略」は、財政的また人的資源が豊かで、重要技術の開発支援が可能な政府機関を備えた国として、米国、日本、そして中国について言及しています。この観点から、米国のこれまでの政権は巨大なインターネット企業の発展に重要な支援を提供し、また、現政権の保護主義的「アメリカ・ファースト」政策は、例えば材料のような伝統的産業の活性化に寄与すると見ています。中国についても、AI、エレクトロニクス、先進的コネクテッド装置、ロボット等の分野で類似した政策の例をあげています。そして、欧州にも、経済成長を実現するためのより大きな影響力を加盟国に付与する政策が必要だと批判的に指摘しています。

「戦略」は、大企業と高水準の投資が、経済的競争力の重要な要素であると認識し、また欧州規制は、市場力学や市場機会という点で不利益をもたらさないように、加盟国やEUの圏外を視野に入れて策定するよう求めています。そのためには、特に世界的レベルで厳しい競争に直面しているが、非常に大きな資本と研究開発費が重荷となっている戦略的分野について、大型合併を認める法改正をして、欧州チャンピオン企業を作り出す必要があるとしています。

 

国家産業戦略2030と欧州エレクトロニクス製造産業のニーズの整合性

第一に認識すべきことは、この新しい「戦略」はまだドラフト段階であり、関係者による議論が求められているということです。これは、活力ある製造業が、国民の競争力、イノベーション、持続可能性、幸福のために担う重要な役割について、EUおよび加盟国政府の理解を深めるためのステップとなります。EUおよび加盟国で最近伝えられている産業政策は、このアプローチに合致しています。また、海外からの競争圧力に統一欧州として取り組むことを求めていることも励みとなります。

「戦略」の全体的な状況分析と問題提示は概ね適切なものです。高水準の資本支出が必要な分野では、競争力と国際的リーダーシップを確保するためには、早い段階での政府の関与とサポートに加えて、大企業の存在、高水準の投資が有益です。「戦略」が主張する、イノベーションと競争力を下支えすることが、加盟国が共有する責任であり、欧州製造業は、政府が後ろ盾となった巨額投資を受けた海外企業との競争が激化しているという論点は正しいものです。また、欧州は戦略をフォーカスし、その長所を改めて見定め、キーとなる分野に投資をして、欧州の戦略的バリューチェーンを拡大すべきことは明白です。

欧州の国庫補助に対するアプローチが厳格であることは事実ですが、公平な競争の場を実現するために再検討することは、正しい方向への一歩となるでしょう。また、欧州は当然ながら、市場をゆがめるような競争対手の不公正な行為を警戒し、世界中の企業への平等な市場アクセスを奨励すべきです。

しかしながら、「戦略」には、エレクトロニクス製造産業の現実との整合性が不明確な提案も数多くあります。第一に、欧州の産業エコシステムは非常に多種多様であるということです。敏捷な半導体製造装置企業、スタートアップ、伝統的な同族企業、大規模なグローバル企業、世界的な研究機関、イノベーションハブなどが含まれているのです。欧州のイノベーションの長所は、これらが協力することで生じるのです。加盟国が、巨大なプレイヤーを誕生させることを重視した産業戦略を推進した場合、結局は欧州のエコシステムを弱体化させるかもしれません。むしろ、欧州の産業戦略は、その多様性のあるエコシステムを強化し、政府は小企業、大企業、研究開発センターの強化を超えた協力推進を支援すべきでしょう。

EUは官民のパートナーシップという点ではリーディングモデルとなっており、欧州の産業政策を根底から変える理由はありません。EUの資金提供プログラムは機能しており、いくつか名前を挙げるとHorizon 2020、ECSEL Joint Undertaking、Erasmus+ Sector Skills Alliances等、いずれも成功しています。最近承認された欧州委員会によるマイクロエレクトロニクスIPCEI(欧州の共通利益の重要プロジェクト)は、かなり遅延したものの、健全な法的、経済的、戦略的分析と明確な基準に基づいたものとして高く評価されています。端的に言えば、加盟国の産業政策では、欧州の多様性に富んだ産業エコシステムは管理できないということです。なぜなら同政策は、大企業に偏ったものとなっており、グローバル化とデジタル化の時代における迅速さと協力の重要性を軽視したものとなっているからです。

第二に、「戦略」が提案するアプローチによって独占が生じ、結局は小企業や消費者の不利益につながる懸念があります。競争はビジネスにとっても社会にとっても有益であり、これによって基準が引き上げられ、継続的なイノベーションを通じて消費者は最高の価格、量、品質の製品やサービスを受け取ることができます。欧州の民間企業を競争から保護し、加盟国が支援する大企業を優先するなら、最終的に競争圧力が減少し、変化への適応と継続的なイノベーションの必要も減少することになるでしょう。

第三に、「戦略」は域外の競合に対する加盟国の助成制度の重要性を、過剰に協調しています。欧州はもっと包括的で複雑な産業政策分析をすべきです。EUと競合国のアプローチの違いは、国からの助成制度や競争法に限定されないことは明らかです。いくつか挙げただけでも、欧州の環境、持続可能性、雇用、契約自由、知的財産、データ保護の政策が、競合国と異なっているのです。従って、限られた産業政策の比較分析では、欧州と競合国の差異が見落とされ、得るものはあまりありません。

第四に、欧州の大多数の意見は、強い加盟国は必要ですが、その強さは将来を見据えた枠組みと、明確かつ厳格で包括的な基準に照らしたものであるべきだということです。この意味で、最新の産業政策は次の事項を優先すべきです。a)欧州をコネクトする物理的/デジタルインフラへの投資、b)ハイテクおよびスキルアップ教育の近代化、c)法律の一貫性と確実性および効率的な規制枠組み、d)市場原理に基づく競争が機能すること、e)欧州のブランドを世界で高めること。

要約すると、「戦略」の全体的な目標である欧州産業の競争力強化と問題提示は適切ですが、その提案は、欧州エレクトロニクス製造産業の現実との整合性が明確ではありません。欧州産業の競争力を下支えするには、欧州全域における戦略的バリューチェーンの強化と多様なプレイヤーの連携を目指したEU全体としての戦略が必要です。

EUが世界の中心的ポジションをとっている重要なアプリケーション分野への特化と投資は、欧州産業がその地位を保つための重要な支援となります。さらに、欧州が本当に必要としているのは、世界的に評価されている官民パートナーシップモデルや資金調達プログラムを活用すること、企業に配慮した規制枠組みの実現、そしてインフラ、教育、スキルアッププログラムへの投資です。その他は、欧州企業の判断、行動、責任、義務となります。

本稿での分析は、欧州で近代的産業政策を実現する方法についての議論を促すためのひとつのステップです。次の欧州議会選挙は2019年5月に行われますが、EUおよび加盟国が欧州エレクトロニクス製造産業の成長、競争力、持続可能性を下支えする公共政策として、何が本当に必要かを理解することが極めて重要となるのです。