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2020年1月21日

社会からの大きな期待に半導体産業はどのように応えるべきか

SEMICON Japan 2019「半導体エグゼクティブフォーラム デジタル化を牽引する半導体デバイスメーカートップ2が語る」レビュー

エンライト 伊藤 元昭

 

高齢化、人口の増加、都市への人口集中・・・。確実に進行する世界のメガトレンドに起因して、社会の営みを阻害する様々な問題が顕在化している。継続的な社会を実現するためには、よほど強力で斬新な解決策が必要だ。そして、課題解決の手段として、エレクトロニクスやITを駆使したイノベーション創出に期待が集まっている。

60年間にわたる半導体の微細加工技術の継続的進歩に裏付けられ、電子機器や情報システムの機能と性能は指数関数的な進化を遂げてきた。その急速な進化のインパクトは、あらゆる産業、世界中の人々の暮らしを一変させるものだった。これほど急速な進化を、長期間にわたって続けてきた技術分野は他にない。だから今、世界が直面するあらゆる問題の解決策として、エレクトロニクスやITに期待が集まるのは当然だと言えよう。

 

世界の期待は大きい、しかし現実はいばらの道

ところが、現実はなかなか厳しい。「半導体技術は、これまでどおりの進化を続けていくことが難しくなってきました」。SEMICON Japan 2019の初日12月11日に開催された「半導体エグゼクティブフォーラム デジタル化を牽引する半導体デバイスメーカートップ2が語る」のオープニングで、モデレーターを務めたIHSマークイット テクノロジー調査部 調査ディレクターの南川 明氏は、このように切り出した。

今現在は、半導体技術の進化によって、年々、より多くのデータを収集・伝送・蓄積・処理できるようになってきている。その一方で、扱うデータ量の増加は電力消費の増大を引き起こし、これが新たな社会問題の種となっている。既に、世界の電力消費量の5%がデータセンターで消費され、その割合は年々大きくなる傾向にある。また、電子機器と情報システムの飛躍的な進化を支えてきた「ムーアの法則」のペースが、目に見えてスローダウンしてきた。最先端微細加工技術の研究開発は精力的に進められているが、その量産ラインへの展開とビジネスとして成立が困難になりつつある。

半導体産業の発展には、これまで以上に大きな期待が掛けられている。しかし、その期待に応えるための道のりはこれまでにも増して険しい。半導体エグゼクティブフォーラムには、日本に拠点を置き、世界のデジタル化の行方に大きな影響を及ぼす立場にある半導体デバイスメーカー2社のトップが登壇した。そして、半導体産業が継続的に発展し、世界が抱える社会課題の解決に向けて貢献するため、日本企業にできる役割について熱く議論した。

 

図1

図1:半導体エグゼクティブフォーラムが開催されたSuperTHEATERの会場の様子

 

社会の眼となったイメージセンサーをいかに進化させるか

イメージセンサーは、世界の人々の暮らしを見守り、そこで起きる出来事をつぶさに見つめる“社会の眼”となりつつある。世界が抱える社会問題の解決策を考えるための基礎データを収集する極めて重要な役割を担う半導体デバイスだといえよう。ソニーセミコンダクタソリューションズは、この分野のシェア(金額ベース)で51%と過半を占め、技術とビジネスの両面で圧倒的先導力を誇っている。

2019年の半導体業界は、市場全体を見れば低調に終わった。しかし、同社に関しては「ビジネスは引き続き力強く成長しており、とても忙しい状態です」(同社 代表取締役社長の清水照士氏)と不況とは全く無縁の状態だ。これは同社の強みもさることながら、イメージセンサー自体の社会的役割が重要性を増していることの証左である。講演に登壇した清水氏は、イメージセンサー市場での応用の広がりと技術の進化の方向性を展望した。

ソニーではイメージセンサーの応用市場を、美しい映像データを取り込むことを目的とする“イメージング”と、被写体の状態や周辺状況を正確に映すデータを取り込むことを目的とする“センシング”に分別。それぞれの市場の成長と技術の進化を洞察している。

清水氏によると、「2019年、イメージング領域のスマートフォン向けが急成長しました。これは、多眼化が年率15%増のペースで進んだことで1台当たり7個にまで達し、しかも高画質化を狙ってセンサーサイズが年率20%のペースで大型化したからです」という。ただし、同社ではスマホ向けセンサーの市場が今後も継続的に急拡大するとは考えていない。「2022年まではイメージング領域は伸びると考えていますが、それ以降はセンシング領域が市場拡大をけん引するようになるでしょう。設備投資は、こうしたシナリオを基底に置いて考えています」と冷静な分析を基にした戦略を語った。

 

図2

図2:自動車をはじめとする様々な場面でイメージセンサーは社会を見つめる眼となった
(出典:Imaging L / AdobeStock)

 

そして、センシング領域での成長を後押しするキーテクノロジーとして、人工知能(AI)の処理エンジンの集積技術と、人の眼に映る映像以外のセンシング技術を挙げた。

AIの活用は、取り込んだ画像データから価値ある情報を抽出するために欠かせない。ソニーはイメージング領域で同社の技術的優位性を築いたチップの積層技術をセンシング領域にも応用し、「AIの処理エンジンを積層することで、センサーチップ内で認識処理のかなりの部分を済ませてしまうようにしたい」(清水氏)という。

また、人の眼に映る映像以外のセンシングの分野において、同社は奥行き情報を検知できるインダイレクト光測距(ITOF)技術を応用したセンサーを市場投入済である。「2018年にスマホで最初に採用され、2019年には広く使われるようになりました」(清水氏)と応用の広がりを強調している。それ以外にも、超音波センサーなどとの融合技術、モノのひずみも視覚化できる偏向技術などを生かしたセンシング用のセンサーの開発にも注力していくとする。そして、こうした技術の強みを生かして、「センシング領域の売り上げの割合は、2018年時点では数%でしたが、2025年には30%にまで高める目標を持っています。これによって、同年にはイメージセンサー市場の60%のシェアを達成したいと考えています」(清水氏)という。

 

人々を幸せにするデータ活用基盤の提供を目指して

本格的なデータ活用社会が到来し、NAND型フラッシュメモリーは、スマホやパソコンなど端末だけでなく、クラウド上のサーバーでもデータストレージとして利用されるようになった。さらに近年では、より効果的かつ効率的なデータ活用に向け、端末とクラウドの間に位置するエッジ・コンピューティングでもストレージの媒体としてNANDフラッシュの利用が進みつつある。中長期的視点から見たNANDフラッシュ市場の先行きは極めて明るい。

NANDフラッシュの技術の進化と供給体制の増強によって、莫大なデータを、いつでも、どこでも自在に活用できるようになった。「世界の人々の幸せにつながるデータ活用を後押しできる技術開発と供給体制の整備を推し進めていきたい」。ウエスタンデジタルジャパン プレジデントの小池淳義氏は、このように語った。同社では人々の幸せと社会の発展につながるデータ活用を“Data for Good”と呼んでいる。

小池氏は、社会問題の解決や継続的発展につながる具体的なデータ活用例を、莫大なデータの活用による価値創出「ビッグデータ」と、迅速なデータ活用による価値創出「ファーストデータ」の二つに分類して紹介した。

 

図3

図3:人々を幸せにするデータ活用を後押し
(出典:metamorworls / AdobeStock)

 

ビッグデータの例として挙げたのが、乳がんの検診で用いるマンモグラフィーの診断精度の向上である。検査データの読影を、膨大なデータで学習したAIを使って支援することで、診断精度が劇的に高まるという。マンモグラフィーは重要な検査手段だが、がんの発見が難しく、誤診や見逃しが起きやすい検査でもある。早期発見できれば助かる命を確実に増やすことができるようになる。

ファーストデータの例として挙げたのが、同社がキオクシアと共同で運営している三重県 四日市市のNANDフラッシュの工場の例である。ライン上の各製造装置から収集したデータをリアルタイムで解析し、状況に応じた制御を行うことで、タイムリーな生産性向上が可能になる。

Data for Goodな応用開拓を推し進めるためには、NANDフラッシュのさらなる進化と供給能力の強化が欠かせない。講演の最後に、小池氏は「データ活用の拡大に合わせて、クリーンルームを無制限に広げていくことが困難な状況です。今後も技術の進化と供給能力の強化を継続的に進めるためには、製造ラインを構築する際に新しい発想を取り入れていく必要があります。装置の3次元化などによる設置面積の縮小、異種装置の統合によるサイクルタイムの短縮、さらにスループットの向上を推し進めた製造装置の進化を望んでいます」と語った。

 

半導体市況の回復の兆しが見えてきている

世界の期待に応えるべく半導体業界が進化・発展していく中、日本企業が果たすべき役割はまだまだ大きい。フォーラムの後半では、南川氏をモデレーターとして、講演者2人との間で、半導体市場の短期的な動きの見通し、成長著しい中国を横目で見た日本が置かれている状況、さらには日本の半導体業界の国際競争力強化に向けた人材育成について議論した。

2019年、メモリーの価格が低迷し、半導体市場は不況の中にあった。スマホ向けイメージセンサーの需要増によってビジネス絶好調のソニーでさえ、「確かにスマホ向けは極めて好調でしたが、正直、その他の応用分野はよくなかったように感じます」(清水氏)という。社会の眼としての役割が大きくなっているイメージセンサーでさえ、伸び悩むような市況だったのだ。

ただし、直近の市況や半導体メーカー各社の設備投資の動きを見ると、出口が見え始めてきたようにも見える。「2019年後半には中国で5Gを起爆剤とした回復が見えてきました。2020年はこの動きが世界で本格化し、前年以上に忙しくなることでしょう」(清水氏)という。小池氏も回復に転じることに同意した。「5Gと共にデータセンター向けの市場が回復します。予兆として、既にハードディスクが品不足になりつつあります。この動きは間違いなくSSDにも広がります。さらに、自動運転技術の進歩によって、車載向けが継続的に伸びていくことが確実です。こうした大きな潮流をつかむためには、足元だけを見て一喜一憂するのではなく、長期的視野に立った施策が重要になります」(小池氏)とした。

 

中国の猛追を恐る前に、日本の国際競争力の強化に邁進すべきだ

次に南川氏は、「巨大市場である中国では、半導体の開発力も年々高まっています。日本企業は、中国の半導体業界とどのように付き合っていったらよいのでしょうか」と、中国と日本の立ち位置と相互関係について問いかけた。

小池氏は、「中国が、様々な産業の基盤技術となる半導体を自国調達できる状況を目指すのは当然です。目先の歩留り向上といった短期的成果を追い求めるのではなく、10年後の成果を見据えた取り組みをしている点に、中国企業の取り組みのすごみを感じます。協調する、ジョイントベンチャーを作る、真正面から競争するなど、私たちには様々な付き合い方の選択肢があります。ただし、いずれを選択するにしても、技術的競争力が一歩も二歩も進んでいる状態を維持し、世界中の力を引き込める状態にしておくことが、日本企業の勝ち残りの大前提になります」と指摘した。

一方、清水氏は、「中国のお客様は取り組みのスピードが速く、しかもものすごく勉強しています。私たちのロードマップを共有し、次世代のカメラを共に検討する機会があるのですが、以前は私たちからの提案を受け取って動いていただけでした。これが今では、聞いた情報を持ち帰って熟慮し、次に会った時に「計画を半年前倒しできないか」といった要望を出すようになりました。次は、中国からイノベーションが生まれ、逆に私たちが技術的な要求を受けるようになるのではと感じています」という。

これを受けて小池氏は、「日本企業では、ビジネスのグローバル化についての話題がよく出ます。しかし、中国企業も米国企業もグローバル化についてことさら語りません。世界展開は、ビジネスの大前提なのです。対中国企業を考える場合に限らず、日本企業は日本市場に軸足を置いたビジネスを改める必要があると思います」とした。

上意下達の徹底よりも、自ら考え動ける人材の育成が必須に

さらに、南川氏は「日本の半導体産業での人材不足は深刻です。電子産業に限ったことではありませんが、博士号を取得する人の数が減り、国際的な教育レベルも低下しているという指摘もあります」と国際競争力を維持・強化していくための人材育成について問いかけた。

3年ほど前に九州の大学を対象にして、人材獲得を念頭に置いたヒアリングを実施したという清水氏は「半導体産業が革新的取り組みに向けた人材を求めていることを、企業が十分アピールできていないと感じました。今では、学生に、仕事の魅力と将来性を理解してもらうために、現場のエンジニアを派遣して説明する活動を始めています。人事担当に採用をまかせっきりにしては、人材不足は解決しません」とした。

小池氏は、「日本では博士課程に進むと就職できないという、おかしな状況になっています。これは採用する側の企業にも責任があります。企業と大学が一体化して、もっと価値ある研究を進める、博士号取得者は厚遇するといった取り組みが必要だと考えています。大学も、単に専門性を深めるだけではなく、研究テーマを様々な側面から見ることができる人材を育成する努力が必要かもしれません」とした。

南川氏は、「社内での人材育成に関しては、トップが強力なリーダーシップを発揮して、目指すべき方向を指し示す必要があるのではないでしょうか」とした。これに対し小池氏は、「強いリーダーに引っ張られる会社の姿は、一見かっこいいのですが危うさがあります。エンジニアが自分で考えることをやめ、トップの指示を待つようになってしまうからです。絶えずみんなで議論し、混迷したときにトップが出てくることが大事だと考えています」とした。

清水氏は、自社の例を挙げながら小池氏の意見に同調した。「ありがたいことに、私たちの会社は今、とても忙しい状態です。しかし、社員からは少し時間が欲しいという声が挙がるようになってきています。よく聞けば、休む時間がもっと欲しいのではなく、考える時間が欲しいということのようです。競争力を維持・強化し、ビジネスの成長を継続していくためには、個々の社員が自ら考える時間を取れる環境を用意することが重要だと考えています」とした。

 


 

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