Grossberg 大山聡 2020年4月13日
SEMI関係者の皆様、はじめまして、Grossbergの大山と申します。
Grossbergは個人経営のコンサルティング会社で、半導体業界に長らく身を置く筆者の経験や人脈を元に、様々なご依頼をお受け致しております。また弊社はスマートフォン専門の調査会社「Counter Point」の代理店業務も務めております。
3月31日、同社は「COVID-19 Coronavirus Impact on the Smartphone Market」(コロナウイルスによるスマホ市場への影響)と題したWebinarを開催致しました。ここでは、その内容についてご紹介させて頂きます。
下振れリスクはどの程度か?2020年全体市場
Economist Intelligence Unit(英国)によれば、2020年の世界GDP成長率は、コロナウイルス発生前は+2.3%予想でしたが、直近では▲2.2%と、4.5ポイントも下方修正されました。スマホ市場にも大きな影響が懸念されています。
かつて携帯電話市場は、2001年のITバブル崩壊と2008年のリーマンショックで出荷台数が伸び悩んだ時期がありました。
2001年と2002年は、見込みに対して10-12%ほど出荷台数が下回りました。
2003年は同+22%(521百万台)、2004年は同+31%を記録しました。
2008年は見込みを3%下回り、2009年は7%下回りました。
2010年は同+16%、2011年は同+13%を記録しました。
携帯電話市場は弾力性があり、伸び悩んだ後はリバウンドが発生する傾向があります。
スマホ市場は2019年後半から回復し始めていたので、2020年の従来予測はYoYで+3%を見込んでいました。しかし昨今のコロナウイルスの影響で、これを同▲4%に下方修正します。修正幅は7%となります。
2021年は同+6%が見込めますが、これは従来予測を3%下回ります。
2022年が完全にリバウンドする年で、同+6%が見込めます。
中国スマホ市場は、1Q2020がYoYで25%下振れ、年間で▲3.4%が見込まれます。
世界スマホ市場は、1Q2020が同9%下振れ、年間で▲4.2%が見込まれます。
OEM各社の動き
コロナウイルスの影響をOEM別に見てみましょう。
MotorolaとLenovoは生産ラインが武漢にあり、直接的な影響があります。
米国市場向けの出荷が2月下旬から停滞し始め、この2社はODMパートナーとやりくりをしながら調整を試みましたが、十分な対応ができませんでした。
Huawei、Honor、Oppo、Vivoなどの中国スマホ各社は売上が落ち込み、在庫が積みあがりましたが、現在では需要が順調に回復しつつあります。
Appleは、米国および台湾の技術者が中国を訪問できず、鴻海の製造員が自宅待機のために十分な製造ができていません。iPhone SE2 (iPhone 9)の出荷は、4月下旬にずれ込む見通しですが、このタイミングではコロナウイルスの拡散が収まっていないと思われます。
Samsungは欧州、インド、米国での需要減が大きく影響しています。
さらにインドでのロックダウンが5月末まで延期されると、ここに大きな生産ラインを持つSamsung、Xiaomiの2社が影響を受けることになりそうです。
いずれにしても、市場が回復途上の間は、キーコンポーネントおよび5G機種に必要な部材の不足が続くものと思われます。
OEM各社への影響の比較
Supply |
1Q2020 |
2Q2020 |
2H2020 |
---|---|---|---|
有利な企業 |
Samsung |
Huawei, Apple |
Samsung |
不利な企業 |
Apple, Huawei, Motorola, Oppo, Vivo |
Xiaomi, Samsung |
部品に制約のあるOEM |
Demand |
1Q2020 |
2Q2020 |
2H2020 |
---|---|---|---|
有利な企業 |
|
Huawei |
Samsung, Apple |
不利な企業 |
Apple, Huawei, Motorola, Oppo, Vivo |
Xiaomi, Samsung, Apple |
|
ピークアウト後の中国
中国では、コロナウイルスの感染がピークアウトしてからスマホの出荷が伸び始めています。
SGMV(中国SAICと米GMの合弁企業)によれば、2月初旬の自動車販売は約200台に留まっていましたが、3月は5日間で少なくとも5,000台に達し、1日で6,000台の販売(昨年の年間平均値より上)を記録した日もあったようです。
長らく生産がストップしていたために在庫が不足しており、5月には需給のミスマッチが表面化する可能性がある、とのこと。
状況は流動的なので、Counter Pointとしては月次でUpdateを行う予定です。
ポジティブな見方をすれば、治療薬やワクチンが今年中に出てくる可能性があります。効果的な抗原検出テストにより、陰性が証明されている人は職場に復帰できます。
一方でネガティブな見方をすれば、秋になって気温が下がるタイミングで、コロナウイルスの第2の波が来るかも知れないし、倒産企業が増えるなど、景気がさらに悪化する可能性もあります。
以上がWebinarの内容でしたが、筆者としては、全体的に強気な見通し、という印象を受けました。実際にそのような質問も飛び出した際に、Counter Point社から「今回の見解は、ベストシナリオの1つ」という回答もあり、コロナウイルスの拡散状況によっては、今後この見通しが修正される可能性が高そうです。
因みにHuaweiは、世界スマホ出荷台数が前年比20%減の可能性もある、という厳しい見方をしています。
半導体市場への影響として、筆者は2月の時点で「従来の予測を10%程度押し下げるインパクトがある」という記事を公開しましたが、これはWHOによるパンデミック宣言(3月11日)の前の段階で、中国国内におけるコロナウイルス感染がスマホやパソコンの生産にどう影響するか、という視点での分析でした。
https://eetimes.jp/ee/articles/2002/19/news026.html
世界中に影響が拡散してしまった現在、その程度の影響で済むとは思えません。更なる下方修正は覚悟の上で、「今後は5G/IoT/AIの活用を急ぐべき」と、その対策に言及させて頂いております。
https://eetimes.jp/ee/articles/2003/18/news033.html
2020年は半導体業界にとって良い年になるはずだったのに、こんな展開になってしまったのは非常に残念ですが、一刻も早い終息を願いながら、このコーナーにも執筆を続けさせて頂きたく存じます。
今後ともよろしくお願い申し上げます。