downloadGroupGroupnoun_press release_995423_000000 copyGroupnoun_Feed_96767_000000Group 19noun_pictures_1817522_000000Member company iconResource item iconStore item iconGroup 19Group 19noun_Photo_2085192_000000 Copynoun_presentation_2096081_000000Group 19Group Copy 7noun_webinar_692730_000000Path
メインコンテンツに移動
2020-07-03

SEMI、欧州委員会のAI白書に回答

2020年2月、欧州委員会は、「White Paper on Artificial Intelligence: a European approach to excellence and trustAI白書:卓越性と信頼への欧州のアプローチ)」の原案を発表し、関係者による協議を開始しました。これを受けてSEMI Europeは、会員からのフィードバックをまとめ、6月に主要な政策提言を欧州委員会に提出しました。

AIの開発は最近までクラウドが中心であり、計算は概して遠隔のデータセンターで行われていました。この集中型モデルに挑戦しているのがエッジAI、つまり、スマート機器にIoTセンサーとオンボードのデータ処理を搭載することで、データを生成ポイントで計算するモデルです。AIアプリケーションには、完全自律型の交通システムでの人や車の認識のように、パターン認識の高い即時性が求められるようになりました。このような人命にもかかわるアプリケーションでは、クラウドとのデータの往復時間を待つことはできませんし、HDカメラ、レーダー、ライダー、その他の高速センサーから送信されるテラバイトのデータを無線通信に頼ることもできません。このようなケースでは、データが収集された場所で即時に計算する必要があり、エッジコンピューティングはこれからのIoTシステムやAIアプリケーションの柱として重要性が増しているのです。

EU edge computing

 

今後もクラウドはエッジを補完するために必要であり、大きすぎるビッグデータのプールや、電子機器上で実行するAI推論アルゴリズムのトレーニングを行いますが、AIアプリケーションの多くはエッジをターゲットにするようになるでしょう。2024年までに、エッジAIチップ(遠隔地にあるデータセンターではなく、エッジ側の電子機器上で機械学習を実行・高速化するチップまたはそのパーツ)の販売量は15億個を超えると予測されています。これは、年平均成長率(CAGR)にすると20%を超える高成長で、半導体全体の年平均成長率9%2倍以上に相当します。[1]

電子機器上でAIアルゴリズムを実行することができれば、クラウドで計算する場合と比べて、待ち時間の短縮、信頼性の向上、セキュリティとプライバシーの向上、ネットワーク帯域幅の効率的な利用などの大きなメリットがあります。大量のデータをローカル処理することで、エッジAIは個人情報やビジネス情報の傍受や悪用のリスクを低減します。エッジAIでは、クラウドとのデータの往復がなくなるので、リアルタイムの応答性が実現可能になります。低消費電力のマイクロチップにより、小さなバッテリーを搭載した電子機器でもAIの計算を実行できますから、エネルギー消費量も低減します。組み込みのエッジAIチップは、必要なデータだけをリアルタイムで分析するため、データストレージと帯域幅のコストを削減します。エッジAIが、欧州のセキュリティ、環境の持続可能性、競争力など、EUのパブリックポリシーの目標に大きく貢献することは間違いありません。

このような背景のもと、SEMI Europeは、欧州の新しいAI政策について、以下のような政策提言を行いました。

 

Horizon EuropeKey Digital Technologies Joint Undertakingの両制度を通じて欧州の強みに焦点を当て、エッジAIに向けたマイクロエレクトロニクス研究開発に投資する

SEMI Europeは、産業用・プロフェッショナル市場における欧州の強みを十分に生かした新しいAI戦略を全面的に支持します。自動車、医療、産業、ロボット、航空宇宙、セキュリティの関連エレクトロニクスといったプロフェッショナル/組込みシステム市場は、今後5年間のCAGR50%と予測されています。

プロフェッショナル/組込みエレクトロニクスは、欧州が世界の中心的ポジションを占める重要な分野です。世界のエレクトロニクス生産における欧州のシェアは、当然のことながら、欧州が優位なポジションにある分野で最も高くなっています。EUの自動車産業基盤は非常に競争が激しく、EUの車載エレクトロニクス部門は世界の27%を占め、中国(20%)や北米(18%)を上回り世界をリードしています。また、EUは産業用アプリケーション分野でも強いポジションにあり、この分野では世界のエレクトロニクスの20%を生産しています。EUはまた、世界の航空宇宙/防衛/セキュリティエレクトロニクスの22%、医療用エレクトロニクスの19%を生産しています。[2]

まもなく開始されるHorizon EuropeKey Digital Technologies Joint Undertaking (KDT JU)は、官民のリソースを結集し、欧州の強みである組み込みエレクトロニクスに資金を提供することで、欧州をエッジAIの中心に位置づける上で極めて重要な役割を果たさなければなりません。SEMI Europeは、これからのEUのエレクトロニクス関連研究の範囲を拡大し、ソフトウェア、フォトニクス、バイオエレクトロニクス、フレキシブルエレクトロニクスをKDT JUに統合する提案を歓迎します。しかし、Joint-Undertaking(共同研究)は、IoT、スーパーコンピューティング、エッジでの高速データ処理、低消費電力のハイパーコネクティビティを可能にする、欧州が競争力を持っているエレクトロニクスの設計製造分野、つまり半導体材料・装置、マイクロチップ、FD-SOI(完全空乏型シリコン・オン・インシュレータ)、先端パッケージング、MEMS、センサー、イメージセンサーなどから焦点をずらすべきではありません。さらに、KDT JUは、欧州の主要なエンドユーザーである交通・医療分野の要求に焦点を当てる必要があります。Electronic Components and Systems for European Leadership Joint UndertakingECSEL JU)に比べてKDT JUの範囲が広がることを考えると、SEMI Europeは、KDT JUの予算をECSEL JU2倍の100億ユーロ(約1.2兆円)とする提案を支持します。

 

欧州デジタル計画の支援を受けて、技術中心の汎欧州的なエッジAIの試験実験施設の設立

SEMIヨーロッパは、欧州委員会がDigital Europeプログラムを通じて試験・実験施設を設置する計画を全面的に支持します。欧州委員会は、欧州が強い分野を考慮して、エッジAIのハードウェアを対象とした技術中心の汎欧州的な試験・実験施設を優先的に設立し、欧州の主要な技術研究機関とマイクロ/ナノエレクトロニクス企業の相乗効果を共通プラットフォームの下で発揮させるべきです。

エッジAI試験実験施設は、スマートヘルス、モビリティ、製造業、農業などの主要なエッジAIアプリケーションを実現する組み込みエレクトロニクスの開発と市場導入を加速させる上で、重要な役割を果たします。そして、商業化前のAI技術を実証し、検証するための欧州の包括的プラットフォームとして機能することが想定されています。これにより、初期の研究開発プロジェクトの成果を研究室の外に持ち出し、技術成熟度(TRL)を3~5から5~7に引き上げ、新製品の市場投入までの期間を短縮することができます。これには、技術の実証試験、少量生産での歩留まり・統計分析の実施、欧州の様々なAIユースケースのニーズに対する検証、企業による市場導入のためのプロトタイプ作製が含まれます。

重要なことは、Digital Europeプログラムの支援を受けた エッジAI試験実験施設が、新たな研究開発プログラムを立ち上げることはないということです。この施設が重点を置いているのは、商業化はされていないがHorizon 2020ECSEL JUなどの欧州の研究開発プログラムから既に資金提供を受けており、マイクロ・ナノエレクトロニクスを専門とする欧州の主要技術研究機関で利用可能な技術イノベーションを展開することです。しかし、まだ商業化されていないイノベーションは、市場に投入する前にテストと検証をする必要があります。エッジAI試験実験施設は、欧州の研究開発と製造能力を結びつけ、ラボからファブへの移行を加速させるという、重要な役割を果たすことになるでしょう。エッジAI試験・実験施設の大目標は、欧州の大手技術研究機関のエッジAIイノベーションを梃にして、欧州のイノベーションを加速させることにあります。

エッジAI試験実験施設は、技術研究機関の試験実験能力を補完し、欧州にあるデザインハウス、装置メーカー、材料メーカー、半導体デバイスメーカー(IDM)、ファウンドリ等のマイクロエレクトロニクス・サプライチェーンが生み出す将来の製品・サービスの試験・実験能力を組み込むように設計しなければなりません。つまり、施設の役割は、エッジAIハードウェアの開発、試験、検証を行い、欧州のIDMやファウンドリによる新しい電子部品の製造を合理化することにあります。

 

欧州共通利益に適合する重要プロジェクトによるAIハードウェア製造の拡大

欧州の研究開発における官民連携は世界的に賞賛されていますが、EUと加盟国は並行して、資本集約的でリスクが高く複雑な製造活動を支援する大胆な投資プログラムを立ち上げるべきです。AI関連研究への投資だけでは、イノベーションの水準を高く保つことにはなりません。欧州の強力なAIエコシステムには、マイクロエレクトロニクスの研究と製造活動の継続的な連携が必要なのです。

強力な産業基盤を維持することの重要性を理解している世界各国は、国内ファブ建設に対する多額の投資を政府の支援の下で行っています。中国の「中国製造2025」では、AI関連ハードウェアの開発を支援するためにIC基金を立ち上げ、1500億ドルの資金を集めて、輸入半導体の国産品への置き換えを進めています。20206月、米国議員は、米国の半導体産業に228億ドルの支援を提供する法案「Chips for America Act」を提出しました。

Advocacy public policy-1

2018年、欧州委員会は、マイクロエレクトロニクスIPCEI(欧州共通利益に適合する重要プロジェクト)に対するランス、ドイツ、イタリア、英国が拠出する175000万ユーロ(約2100億円)の公的支援を承認しました。このプロジェクトは、自律型電動モビリティ、スマート製造、ホームデバイスなどの重要なアプリケーションの実現技術を目指しています。マイクロエレクトロニクスIPCEIは、エネルギー効率の高いチップ、次世代パワー半導体、高性能・高精度スマートセンサー、先進光学機器、シリコンを超える化合物材料の開発の道を切り開きます。

マイクロエレクトロニクスの研究開発と製造にかかるコストは増加しており、最新鋭のファブは簡単に100億ユーロ以上のコストがかかるようになっています。マイクロエレクトロニクスIPCEIが構想された当時と今では、技術的、産業的、地政学的な状況が劇的に変化しています。欧州のマイクロエレクトロニクス業界は、現在、第2IPCEIの設立を検討しています。SEMI Europeは、第2のマイクロエレクトロニクスIPCEIをはじめ、クリーンでコネクトされた自律走行車、スマートヘルス、産業用IoT、サイバーセキュリティなどの分野で計画されている他のIPCEIによって、エッジAIを可能にするためのマイクロエレクトロニクスチップとシステムの製造を再活性化するようEUならびに加盟国に要請しています。

 

Digital Europeプログラム、Erasmus+Pact for Skillにおける高度AIスキルの優先化

継続的なイノベーションはマイクロエレクトロニクスやAIの酸素であり、エンジニアリングの技術的専門知識を持った労働者にエネルギーを与え、高度にカスタマイズされたソリューションの開発を後押ししています。さらに、スマート・アプリケーションの開発には、ソフトウェアやデータ分析の知識を持った人材が必要です。1980年代以降、マイクロエレクトロニクスは急速な進化を続けていますが、欧州の教育カリキュラムは同じペースで成熟していないため、産業界と教育界の間にギャップが生じ、若い卒業生の多くがスムーズに職場へと移行できなくなっています。

WFD

SEMIとDeloitteが実施した調査「Workforce Development: A Critical Industry Issue[1]」によると、世界のエレクトロニクス業界では、AI、機械学習、デジタル化に関連するエンジニアリング分野の欠員を埋めることが困難になってきているとの回答が増えています。同様に、2018年にドイツの産業界では、理数系教育を受けた労働者が337900人不足しました。[2] 別の報告書[3]によると、英国では専門技能を持つ労働者が173000人不足し、理化学系企業の89%が採用に苦戦しています。現在の傾向が続けば、OECDG20の理数系卒業生の60%以上を中国とインドが占めることになり、ヨーロッパの理数系卒業生は2030年には8%まで落ち込むことになります。[4]米国の総労働力はEUの半分であるにもかかわらず、米国はEU2倍の数のAIスキルを持つ人員を雇用しています。[5]

開始が迫るDigital EuropeプログラムのAdvanced Digital Skills Pillar、新たに発表されたPact for SkillsErasmus+プログラムは、欧州における高度なAIスキルの開発を加速させるのに十分な内容です。また、これらのプログラムは、欧州のAI人材パイプラインを多様化し強化する上で強力な役割を果たすことになるでしょう。将来のEUの教育プログラムは、企業が必要とする知識と実践的な仕事のスキルを学生が習得できるよう、ワークベースの学習を支援すべきです。革新的なデュアルラーニングプログラム、アプレンシスシップ(見習い)、産学連携修士・博士制度(Industrial master/doctorate)は、欧州の一部地域ですでに実を結んでいる事例です。

ワークベースの学習は、長期的に競争力を維持するために不可欠であり、特にAIのような急速に台頭してきているテクノロジーにおいては欠かすことがけきません。さらに、学校を卒業し、就職し退職するまでの従来の道のりが時代遅れになりつつある中で、継続的な技術や労働市場の変化に対応するためには、スキル再教育や、アップスキル教育が必要となります。したがって、EUが資金を提供する将来の教育プログラムは、生産性と革新性を維持するために必要なデジタルスキルを開発するための、成人労働者のスキル再教育とアップスキル教育を支援すべきです。このような再スキル化・アップスキル化プログラムは、理想的な教育環境を提供するために、大規模なオープン・オンライン・コースをワークベースの学習や教室での授業に統合すべきだと考えられます。

SEMI Europeのプレジデント レイス・アルティマイムは、「今回の白書は、急速に台頭しつつあるAI技術の巨大な可能性を取り込むために、ヨーロッパが前進する意思を示しています。SEMI Europeは、この政策提言を欧州委員会と議論する機会を待ち望んでいます。マイクロエレクトロニクスは、重要な役割を果たしており、すべての関係者と協力して、欧州のAIリーダーシップを強化するための新たな成長の道を開拓する準備ができています」と述べています。

 

SEMI EuropeからのEUAI白書への回答はこちらからダウンロードできます。

 

[1] SEMI – Deloitte, 2018: Workforce Development: A Critical Industry Issue

[2] IW, 2018: STEM Report

[3] STEM Learning, 2018: Skills shortage costing STEM sector £1.5bn

[4] OECD, 2015: Education Indicators in Focus

[5] LinkedIn, 2019: AI Talent in the European Labour Market