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LSIは主にファウンドリにおいて標準化されたプロセスで作られ、また乗り合いでMPW (Multi Project Wafer) としての試作も可能です。MEMS (Micro Electro Mechanical Systems) でも教育用にはMUMPS(Multi-User MEMS Processes) と呼ばれる、標準化したMEMSプロセスによる試作サービスも行われていましたが、実際に使われるMEMSとなると、個別のプロセスになるため、試作や生産に一連の設備と知識が必要です。MEMSファウンドリで試作や少量生産を請け負っても、採算が合いません。スマートフォンなどに大量に使われる安価なMEMSから、製造・検査や医療・バイオなどに使われるMEMSまで製品にダイバーシティがあると同時に、開発や製品化でもダイバーシティに対応していかなければなりません。このための特色ある取り組みを見てみたいと思います。

 

thumbnail_2018江刺米国では、1960年代からスタンフォード大学でMEMS研究が始まり、その後カリフォルニア大学バークレー校などの大学や、アナログデバイスやテキサス・インスツルメンツなどの大企業、またMEMSベンチャがこの分野を発展させてきました。2004年にカリフォルニア州サンノゼに SVTC (Silicon Valley Technology Center) という会社ができ、8インチラインでLSIとは異なる多様な半導体デバイスの試作・小規模生産を行なっていましたが、2012年10月に閉鎖されました。多様化に対応しながら採算を合わせるのは容易ではありません。同じカリフォルニア州にあるA. M. Fitzgeraldは2003年に創立され、技術戦略のコンサルティングや設計から試作を行い、量産ファウンドリに移行させる支援を行っています。主に大学の設備を使って6インチウェハで試作するコンパクトな形で行っています。この他専業MEMSファウンドリとしてはカリフォルニア州サンタバーバラのIMT (Innovative Micro Technology) などがあります。カリフォルニア州サンノゼにあるInvenSenseは慣性センサで成功し、2016年にTDKに買収されています。まBroadcomからFBAR (Film Bulk Acoustic Resonator) が供給され、MEMS分野では最大の売上になっています。

 

カナダでは、アルバータ州エドモントンにMEMSファウンドリTeledyne Micralyneがあります。1986年にスタートしたUniv. of Albertaのプロジェクトをベースに1998年にMicralyneが設立され、標準的なプロセスをプラットフォームにして発展してきましたが、2019年にTeledyneが買収しました。Teledyneはこの他オンタリオ州ウォータールーにある産業用映像機器のDALSAを2010年に買収し、Teledyne DALSAというMEMSファウンドリにしています。

 

欧州では、公的研究機関 (ドイツのフラウンホーファ研究機構、フランスのグルノーブルにあるMINATEC、ベルギーのiMEC、フィンランドのVTTなど) が重要な役割を担って、大学と企業をつなぎベンチャ育成などにも貢献しています。大企業ではドイツのBosch Sensortec、イタリア・フランスのSTMicroelectronicsが自社製品を作りながらMEMSファウンドリも運営しています。これらの会社では小さな内部応力で厚くできるエピタキシャルポリSi膜を、容量型慣性センサなどに使用していますが、これはスウェーデンのウプサラ大学、フラウンホーファ研究機構などが関わって実現したもので、このようにリスクをかけられる大学や研究機関が企業からの課題を担っています。同様にSi共振子の温度特性も、VTTなどが関与し改善しています。専業のMEMSファウンドリとしては、ポリSi貫通配線を強みとするスウェーデンのSilex Microsystemsが最大の売り上げを達成しています。容量型加速度センサの自前製品を持つスイスのSafran Colibrysや、LSIメーカから発展したドイツのX-fab Silicon FoundriesなどのMEMSファウンドリもあります。この他のMEMS関連企業で、厚膜SOI(Silicon On Insulator)に強みを持つフランスのTronic’s MicrosystemsはMEMSファウンドリで慣性センサ―の自前生産もしてましたが、2016年にTDKに買収されてTDK Tronicsとなっています。またフィンランドのVTI Technologies Oyは容量型加速度センサなどを製造し、村田製作所に買収されて2012年5月にMurata Electronics Oyとなりました。

 

アジアについては、シンガポールの公的研究機関IME (Institute of Micro Electronics) がMEMS試作を受託して(日経マイクロデバイス, 2006/9, 86-87)、開発したものを台湾のTSMC (Taiwan Semiconductor Manufacturing Co.) で生産する例などが多く見られます。IMEはフラウンホーファ研究機構などの欧州の公的研究機関と同様に、企業資金を得ることを通して産業界のニーズを先取りするとともに、政府補助金を使って採算の合いにくい試作サービスを可能にしています。台湾ではTSMC以外にも、APM (Asia Pacific MicrosystemsなどのMEMSファウドリもあります。

 

中国では政府が半導体部品関係を後押しして、SIMIT (Shanghai Institute of Microsystem and Information Technology) などの研究機関では開発・少量生産を行い、上海のSITRI (Shanghai Industrial μTechnology Research Institute)などのMEMSファウンドリが8インチのラインを持ち大きく発展しています。

 

日本のMEMSの産業化を見てみますと、1990年頃までわが国のMEMSは世界の一翼を担っていました。例としては、豊田中央研究所で開発されたピエゾ抵抗型の圧力センサが、1980年代に自動車のエンジン制御に使われ、排気ガス対策に貢献しました。1987年に横河電機では振動型圧力センサを開発しています。また深くエッチングするBoschプロセスによるDRIE (Deep Reactive Ion Etching) を住友精密工業が1995年に製品化しMEMS分野に大きく貢献しました。

 

 

2000年頃からクローバル化が進み、企業内での開発が弱体化して、新たにMEMSを始めた多くの会社が正しく判断できずに、外部から持ち込まれた技術を安易に取り入れて失敗しました。同じピエゾ抵抗型3軸加速度センサを数社以上が作るという2006年頃の異常な状況 (日経エレクトロニクス 2006/9/11 71-77) は日本企業の弱さを象徴しています。関わった企業は撤退しました (日経マイクロデバイス, 2009/5, 80-81)。容量型に比べピエゾ抵抗型は消費電力が大きいため携帯機器などには使えません。2010年頃から海外ベンチャ企業などとM&Aで提携するように変わってきました。新技術が生まれにくい日本の現状では、これは止むを得ないと思いますが、日本発の新技術が産業に結び付くよう、努力していく必要があります。

 

MEMSファウンドリは2005頃に公的資金にも支えられて生まれましたが、自社向けデバイスを優先したものは(日経マイクロデバイス, 2009/2 104-105)多くが撤退し、世界における地位が相対的に低下しています(日経マイクロデバイス, 2008/11 49-55)。しかし日本のMEMSも、MEMSマイクロホンなどをMEMSファウンドリとして供給しているソニーセミコンダクタマニュファクチャリング、またMEMSマイクロホンを自ら製造しながら外国のMEMSファウンドリも使って供給する新日本無線、光技術をベースにしたMEMSの試作・製造工場を持つ浜松ホトニクス、装置(DRIE)からMEMSデバイス(リングジャイロ)やMEMSファウンドリ(シリコンセンシングシステムズ)まで、繋げて展開している住友精密工業、下で述べる「試作コインランドリ」も使いながら採算が合いにくいMEMS試作を請け負うメムス・コアなど、特徴あるMEMSビジネスもあります。

 

日本のMEMSビジネスの問題を考えてみます。縦割り行政も要因で産総研などが産学を結び付けるハブの役割を果たしてないことが影響しています。日本の大学では、産業界の問題点が伝わらないため製品につながる研究は少なく、ベンチャ企業も育ちにくくなっています。また形式的に論文の数で研究を評価する傾向があり、採択されやすい新しさだけのテーマを選定することも問題です。一連の設備を利用して完成度の高い試作品を作れる環境や技術が無いため、試作は外部に委託せざるを得ません。企業でもアイデアを実現するために設備投資をするわけにはいかず、しかし設計試作の経験を持たないで外部委託するとほとんど失敗します。

 

このような課題を解決するため、東北大学の「西澤潤一記念研究センター」では、移設した半導体工場をベースに寄付された設備などを利用し、1800m2のクリールームにある「試作コインランドリ」http://www.mu-sic.tohoku.ac.jp/coin/index.htmlで、会社から派遣された人が自分で操作し、4インチや6インチのウェハで試作開発ができるようにしています。2010年より戸津健太郎准教授が中心になって運営していますが、ここで作られたデバイスを市販させてほしいとの要望に応え、東北大学が文部科学省や経済産業省と交渉し、2013年より製品製作が認められました。2019年末までのユーザは323機関 (企業267社)、毎月延べ800人ほどに使われ、独立採算に近い形で運営されています。また建物はモノづくりのベンチャ企業などにも利用されています。MEMS技術は様々な知識を必要とするため、いかにして多様な知識にアクセスするかが大きな課題です。会社の相談に乗り、無料セミナーなどを開催して知識提供に努めてきました。文献ファイルや関連する学会の予稿集などを整理し、探しやすくして利用頂いております。また4部屋の展示室 http://www.mu-sic.tohoku.ac.jp/nishizawa/ を整備し、サンプルなどを直接見て頂けるようにもしています。是非多くの方や会社にお使いいただきたいと思います。

 

 

Topics: MEMS