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2021-04-13

クリーンルーム内のパーティクルおよび飛沫の移動分析による安全な半導体製造の実現

新型コロナウイルス感染症の病原体SARS-CoV-2が引き起こしたパンデミックにより、2021年3月現在、世界で1億人以上が感染し、260万人以上が死亡しています。このウイルスは主に、感染者が咳やくしゃみ、さらには息をした際に発生する呼吸器からの飛沫を介して人から人へと伝染することが実証されています(参照1-3)。こうした飛沫は、そばにいる人の目や鼻や口に入り、あるいは、物の表面に付着して、それに触れた人がさらに目や鼻や口に触れることでウイルスを伝搬します。

ウイルスは直径0.06~0.14ミクロンと小さいため、呼吸器から放出された飛沫には多数のウイルスが混入、あるいは付着しています。直径1ミクロンの飛沫でも、感染症を引き起こすのに十分なウイルス量を運ぶことができるのです。特に懸念されるのは、空気中の飛沫に換気システムが作用して、病原体の伝播が促進される可能性です。これは、状況に応じた安全距離や、建屋のろ過システム、エアディストリビューション、暖房、空調、除染システムの設計に関係をします。半導体製造のクリーンルームは特殊な例となり、汚染を最小限に抑えるためのシステムや手順が特別に設計されています。

4,400億ドル規模の世界の半導体産業は、半導体チップの製造にクリーンルームを必要としており、ここで製造されたチップは、数兆ドル規模の世界の電子システム産業を支えています。電子システムは、医療、仕事、金融、娯楽、交通、電力など、社会のあらゆる面にわたって重要な役割を担っています。そのため、世界的に増加する半導体需要に対応するためには、生産性を維持しながら作業者の健康を守れるよう、クリーンルームの安全な運用方法を理解することが重要になるのです。業界の指針となるようにパーティクルと飛沫の移動を、モデリング、シミュレーション[参照1-3]、実験[参照4]によって分析した研究について、本稿ではご紹介します。

 

モデリングとシミュレーション

研究のこの部分では、咳から発生したパーティクルの分布の時間変化をシミュレーションする数理モデルが開発されました。モデルを使うことで、重力と空気抗力の影響を受けたパーティクルの飛散範囲,分布,沈降時間が明らかになりました。これによって、大きなパーティクルは移動距離が大きく沈降が早いのに対し、小さなパーティクルは移動距離が短く浮遊時間が長い(ただし周囲の気流によって遠くまで運ばれる場合がある)という定性的傾向に加えて、定量的な移動距離と沈降時間という、職場でのソーシャルディスタンスの確保や安全手順を構築に必要なデータが得られました。図1は、モデリングとシミュレーションの結果の例です。

 

図1

 図1:マスクを着けた人と着けない人の咳から飛散するパーティクルのモデル
(参照1)

 

以下にモデリングとシミュレーションから得られた重要な知見をあげます(参照1)。

  • 大きなパーティクルは(弾道学的に)移動距離が長く早く沈むが、小さなパーティクルは移動距離が短く沈むのは遅い(周囲に外部からの気流域がない場合)。
  • 小さなパーティクルはシミュ―レーションの設定時間(参照1では4秒)では沈まない。長時間のシミュレーションを実行したが、小さなパーティクルのミストは、(理論的に予測されたように)数分後も浮遊したままであった。強い向かい風があると、小さなパーティクルは逆方向に移動するが、やはり長時間漂いつづける。これは、他の人に胴体の高さで接触する可能性があり、最も危険な状況である。
  • 一般的な抗力と重力の比率は、高速度では抗力が運動を支配することを示している。
  • 一般的な咳の場合、パーティクルの動きや咳による周囲の気流の変化が重要になる状況が考えられる。

この研究が示した重要な結論は、感染対策は、空間と時間の両面から対処しなければならないということです。つまり、ウイルスの移動距離に基づいたソーシャルディスタンスをとることが必要ですが、気流の状況によってウイルスがその場所に留まる時間を考慮することも重要となります。このような時空間パターンを正確に把握することで、企業は労働者の感染を防ぐ換気システムや除染システムを正確に設計(または再設計)することができるでしょう。この分析のもう一つの側面は、接触者の追跡(参照2)や除染(参照3)に関連したものです。シミュレーションなどの詳細は、https://msol.berkeley.edu/publications/ をご覧ください。

 

実験

コロナウイルスの主な感染経路は、咳や会話、息をする際に排出される呼吸器系の飛沫であり、安全対策の有効性は、この飛沫の飛散状況を正確に把握することにかかっています。パーティクルという用語は、移動を開始する時は個体である物体を表します。飛沫という用語は、最初は液体である物体に限定されますが、飛沫が蒸発して非蒸発性物質の固体パーティクルに変化することがあることに注意する必要があります。

今回の研究では、Cal Covid Cube(C3)という専用の部屋を設置して利用しました(Thatcher他、参照4)。C3は、内側の寸法が高さ232cm,長さ376cm,幅284cmの直方体の部屋です。実験結果を科学的・実用的に意味のあるものにし、再現性を持たせるためには、実験装置を注意深く制御し、校正することが不可欠です。 そのために以下のような注意を払いました。

  • 静電気フリー:放出された固体パーティクルの正確な沈着パターンを得るためには、静電気の影響を排除する(または徹底的に知る)ことが重要です。静電気からの影響は、パーティクル間の相互作用(浮遊中の動きに影響)またはパーティクルと表面間の相互作用(沈着パターンに影響)に現れます。表面への沈着に対する影響を排除するには、 (1)イオン化した非導電材料の粘着性サンプリングストリップ、(2)アースをしたアルミで裏打ちしたカーボン製サンプリングストリップの2つの方法が有効であることがわかりました。
  • 等温状態:C3にはウォークイン型冷凍庫を転用しており、断熱材は10.5~13cmの厚みがあり、建屋の四方の壁から5m以上離れた中央部にあります。温度の均一性を確認したところ、C3の室温は測定精度の範囲内で等温であることがわかりました。
  • 静止状態:室内に制御できない熱対流が自然発生しないことを確認しました。静止状態は、熱線による流速計測と自由落下するパーティクルの挙動観測の両方で確認されました。
  • 等電位状態:C3の壁とドアの外表面と内表面には導電性のアルミニウムまたはステンレスを使用し、銅テープによってドアおよび内外装パネルを確実に電気的接続しました。電界を調査したところ、測定器の精度の範囲内で無視できることがわりました。
  • その他の設計要素:散乱光を抑え、画像計測の背景を均一にするため、室内のすべての表面に黒のマット塗装を施した。振動を抑えるため、部屋は1階に設置されました。
  • 繰り返し性:実際の咳やくしゃみからの放出をエミュレートし、標準となる乱流噴流に対する咳型の放出における飛沫の挙動をよく理解するために、次の幾何学的放出形状を研究しました。

①    真っ直ぐな円形パイプ
②    90度に滑らかに曲がったパイプ(カーブの半径はパイプ長に応じて変化)
③    実際の気道、口・舌の構造を備えた挿管トレーニング用人形

C3に置かれた挿管トレーニング用人形の実験セットアップを図2に示します。パーティクル/飛沫の放出は緑色に見えるサンプリングストリップに沈着した後に計測されました。

 

図2

 図2:C3の実験セットアップ。アースをした導電性グリッドに電荷中和したサンプリングスプリット(白だが緑に見える)と導電性サンプリングスプリット(黒)を配置(参照4)

 

実験には液体の飛沫と固体のパーティクルの両方を利用しました。飛沫については、蛍光を利用した沈着分析法を検討し、その可能性を見出しました。パーティクルについては、わずかな熱勾配や静電気が与えるデータへの影響を検討し、これらの問題に対処する実用的な方法を開発しました。周囲の空気の流れが速く、非導電性の表面が急速に帯電するクリーンルームのような環境でも、静電気の影響を受けずに正確に測定するために、クリーンルームに持ち込むことが可能な、導電性がありアースをとったカーボンテープベースのサンプリングストリップを開発しました。分析には、市販のネガフィルムスキャナーを使用し、ブラインド・デコンボリューション・アルゴリズムによる画像補正を行うことで、費用対効果の高い方法を開発しました。図3は、弾道飛行物、エアロゾル、その中間の各領域のパーティクルについて、沈着位置のサンプリング結果の中心線を示しています。

 

図3

 図3:実験結果(Thatcher他、参照4)

 

以下は実験作業から得られた主要な知見です。

  • 妥当性検証試験では、室内の静電効果と温度勾配のいずれもが、通常よりも敏感に影響した。
  • 弾道サイズのパーティクルのモデリングでは、初期速度のばらつきを考慮することが重要である。
  • すべてのサイズのパーティクルについて、過渡状態と定常状態のシミュレーションを行うと、予測される粒子の広がりに大きな影響を与えます。
  • パーティクルの飛行経路にいる人間からの熱上昇気流だけで、50ミクロンのパーティクルが部屋中に広がる可能性がある。状況によっては、最大6メートルの移動が観測された。
  • 飛沫の蒸発には、相対湿度と温度が大きく影響する。現実的な結果として、低湿度では、他の条件が同じであれば、パーティクルはより遠くへ到達する。(パーティクルが収縮してエアロゾル領域に入ることが理由)

以上のように、シミュレーション、モデリング、実験によって,パーティクルと飛沫の移動の系統的分析を実施しました。その中で開発された安定的した、精密かつ繰り返し性の高い手法により、世界の半導体クリーンルームの安全なオペレーションと生産性をサポートする有意義な知見を導き出すことができました。さらに、研究成果は、現在および将来のパンデミックから人の健康と経済を守るための換気システムおよび汚染除去システムの設計(または再設計)にも役立ちます。この記事では、研究の概要を紹介しましたが、詳細については、現在発表を準備中の一連の科学論文で明らかにする予定です。

本研究に対する以下の皆様(敬称略)からのご支援に感謝いたします。

  • Lam Research Corporationからの寄贈
  • SEMIがコーディネートしたAdvanced Energy Industries、Applied Materials、ASM、Entegris、JSR、KLA、TEL、Wonikからの寄贈
  • カリフォルニア大学CITRISおよびバナタオ研究所からの「2020 Seed Fund」賞
  • Vision Researchからのパーティクル速度の定量化のためのv2640カメラの提供
  • C3で実験を行った大学院生のEric ThacherとTvetene Carlson
  • ローレンス・バークレー国立研究所のBrett Singer、Thomas Kirchstetter、Michael Sohn、Chelsea Prebleの飛沫の移動とCOVIDに関する貴重な意見、Keith Hansenのパーティクルサンプリングと電荷中和に関する意見
  • COVID-19への対応に焦点を当てたDOE国立研究所のコンソーシアムであるNational Virtual Biotechnology Laboratoryを通じたDOE Office of Science(コロナウイルスCARES法による資金提供を受けている
  • Steven RuzinとBiological Imaging Facilityからの、パーティクルカウント法の検証に必要な高品質の蛍光顕微鏡スキャナー入手への支援

 

参照文献

  1. Zohdi, T.I. (2020) Modeling and simulation of the infection zone from a cough, Computational Mechanics. https://doi.org/10.1007/s00466-020-01875-5
  2. Zohdi, T.I. (2020). An agent-based computational framework for simulation of global pandemic and social response on planet X, Computational Mechanics. https://doi.org/10.1007/s00466-020-01886-2
  3. Zohdi, T.I. (2020) Rapid simulation of viral decontamination efficacy with UV irradiation. Computer Methods Appl. Mech. Eng.
    https://doi.org/10.1016/j.cma.2020.113216
  4. Thatcher, E., Carlson, J., Castellini, J., Sohn, M.D., Variano, E. and Makiharju S.A. (2021) Droplet and Particle Methods to Investigate Turbulent Particle Laden Jets (in preparation)

 

執筆者

  • Evan A. Variano, Professor, Environmental Engineering, UC Berkeley
  • Simo Mäkiharju, Assistant Professor of Mechanical Engineering, UC Berkeley
  • Tarek I. Zohdi, Will C. Hall Endowed Chair of the UCB Computational & Data Science & Engineering Program, Professor of Mechanical Engineering, UC Berkeley
  • Pushkar P. Apte, Director of Strategic Initiatives, Center for Information Technology Research in the Interest of Society (CITRIS) and the Banatao Institute, UC Berkeley; and Strategic Technology Advisor, SEMI

 

原文はこちら:https://www.semi.org/en/blogs/technology-trends/particle-droplet-transport-analysis