downloadGroupGroupnoun_press release_995423_000000 copyGroupnoun_Feed_96767_000000Group 19noun_pictures_1817522_000000Member company iconResource item iconStore item iconGroup 19Group 19noun_Photo_2085192_000000 Copynoun_presentation_2096081_000000Group 19Group Copy 7noun_webinar_692730_000000Path
メインコンテンツに移動
2021-03-09

米中貿易戦争の勝者はベトナム

米国では、身に着けている服や靴のラベルに「Made in Vietnam」と印刷されているのに気づくことが増えています。1994年に米国がベトナムとの貿易禁止令を解いて以来、同国は衣料品と靴の対米輸出額が世界2位となっているのです。しかし、クリスマスプレゼントで贈られた電子製品に使われている部品やチップの輸出国とその複雑なサプライチェーンについては、それほど気づかれていないもしれません。

ベトナムでは、1980年代のドイモイ経済改革以来、軽工業が経済成長を支配してきましたが、最近の10年間は、世界のマイクロエレクトロニクス産業の支配的プレーヤーへと方向転換を図っており、米中貿易戦争をきっかけにその勢いを増しています。2019年には、の電気製品や部品の対米輸出額が世界4位にランクされました。過去4年間で輸出額はで倍増し、現在では190億ドルを超えて、台湾、日本、韓国を上回っています(HSコード85類で輸出された品目を基準とする)。ベトナムのエレクトロニクス産業は、今では世界の輸出額の約40%を占めていますが、その発展はまだ始まったばかりだと言えるでしょう。

 

初期の参入企業

ベトナムが半導体およびマイクロエレクトロニクス産業における海外直接投資(FDI)の誘致に成功し成長を遂げているのは、チャイナ・プラスワン、つまり投資を地理的に分散させるビジネス戦略が到来したおかげですが、10年前にベトナムを世界の舞台に立たせたのは、この新興市場に賭けた数少ない早期参入企業でした。

初期の参入企業の中でも、サムスンほどのインパクトを与えた企業は他にありません。2008年に北部バクニン省に6億7,000万ドルの携帯電話製造工場を設立したサムスンは、その後10年間でベトナム全国に173億ドルを投資しました。サムスンは現在、ベトナム最大のFDI貢献者であり、ベトナムの輸出の25%以上を占めています。サムスンのおかげで、ベトナムは世界第2位のスマートフォン輸出国となりました。

Vietnam FDI同じ頃、インテルはホーチミン市に10億ドルの半導体組立・テスト工場を開設し、ベトナムは世界のテクノロジー地図に確固たる地位を築きました。その後も、LG、パナソニック、Foxconnなどの海外企業が次々と参入したのです。SEMIが2013年と2014年にベトナム半導体戦略サミットを共催したことからもわかるように、これらの初期投資から数年以内にベトナムは業界の注目を集めるようになりました。SEMI SEAは、電子機器サプライチェーンの重要国としてベトナムをプロモートしており、今後も会員企業のベトナムでの成長と繁栄にプラスの影響を与えていくことが期待されます。

これらの初期参入企業がベトナムに魅力を感じたのには、いくつかの理由があります。その中でも、ベトナムの賃金水準の低さと、好ましい人口構造の組み合わせが重要です。国連はこれを「黄金の人口構造」と呼び、「ベトナムには他に類を見ない社会経済発展のチャンスがある」と評価しました。また、ASEAN自由貿易地域、CPTPP、EUとのFTA、最近ではRCEPなど、ベトナムが加盟する自由貿易協定(FTA)が増加していることも企業にとって魅力的です。米国はまだ貿易協定に調印していませんが、在シンガポール米国商工会議所の年次地域調査では、米国との二国間FTAパートナー候補としてASEANの中で最も魅力的な国にベトナムを挙げています。

 

貿易戦争を利用する

チャイナ・プラスワン戦略がベトナムにおけるエレクトロニクス製造業の高まりの起爆剤であったとすれば、米中貿易戦争はそれを加速する活性剤となりました。東南アジアでは「米中貿易戦争は終わり、ベトナムが勝者になった」というジョークが良く聞かれますが、それは貿易・投資の動向を見ても明らかです。アジア開発銀行(ADB)によると、米中の反目は貿易の方向転換をもたらしました。2019年上半期に米国の中国からの輸入が12%減少したのに対し、ベトナムからの輸入は33%増加し、その増加分の大部分を電子機器や機械が占めたのです。ADBはさらに、貿易紛争が長期化・激化した場合、最悪のシナリオではベトナム、マレーシア、タイが 、この順で最大の勝者となると報告しています。

Vietnam trade war投資面では、2020年3月にGartnerが世界のサプライチェーンリーダーを対象に行った調査では、33%が 「調達・製造活動を中国から移転した、または今後2~3年以内に移転する予定がある」ことが明らかになっています。この調査では勝ち組を名指ししていませんが、ADBは「2019年1月~7月の期間に新たに登録された中国および香港からベトナムへのFDIが前年比200%増加した」ことを報告しており、中国のサプライヤーがベトナムに移動していることが分かります。さらに、最近の報道を見ると、Apple、任天堂、Dellのような企業は、各社のサプライヤーに対してサプライチェーンの一部をベトナムに移動するよう奨励しています。サプライヤーはこれに応じており、Compal Electronics(台湾)、GoerTek(中国)、HZO(米国)、Inventec(台湾)、Luxshare Precision Industry(中国)、Pegatron(台湾)、USI(中国)、Wistron(台湾)の各社はいずれもベトナムへの新規投資計画が報じられています。

 

ベトナムの製造拠点

ベトナム国内には、マイクロエレクトロニクス工場が集中している拠点地域がいくつかあります。南部では、ホーチミンのSaigon High Tech Parkが初期の参入企業であるIntelとSamsungを誘致し、日本電産やJabilといった企業がすぐに後に続いて投資をしています。しかし、最大の投資がされた地域は、ハノイを囲む北部地方です。ハノイから車で1時間の距離にあるバクニン省は、サムスンの最初の投資地であり、それ以来、Foxconnやキヤノンを誘致してきました。最近では、ベトナム第三の都市である港湾都市ハイフォンに企業は引き寄せられており、すでにSamsungとLGの本拠地ともなっています。同市は、他の製造業クラスターと隣接していること、水深の深い港が新たに建設されたこと、中国のエレクトロニクスの中心地である深センまで高速道路で12時間のトラック輸送できることで、ベトナムの新たなハイテク生産の中心的拠点となっています。

2019年にはLG Electronicsがスマートフォンの生産ライン全体を韓国からハイフォンに移し、2020年にはPegatronが10億ドルの投資計画で同市を選んだことが報じられました。また、国産帯電話メーカーVinSmartは、国内初の5Gスマートフォンをハイフォンで生産しています。11月には、台湾のASE Holdingの子会社であるUSIが、東南アジア初の生産工場の起工式をおこないました。ここで、ウェアラブル電子機器用チップの生産と組み立てを行い、2億ドルが段階的に投資されます。

USIの今回の投資は、国際的に管理されているハイフォンのDEEP C Industrial Zoneへの投資であり、「海外の顧客との距離を縮め、増加し続ける需要に対応することを目的としている」と同社の製造サービスディレクターであるKuei Chun Chi氏は述べています。「北ベトナムは、その戦略的立地と広域に及ぶインフラを兼ね備えており、顧客の注文に迅速かつ柔軟に対応するための最適な環境」であると述べています。

新型コロナウイルスの大流行は、ベトナムのマイクロエレクトロニクス産業への新規投資ペースを鈍らせていますが、同時に投資家対するベトナムの魅力を増幅もしています。ベトナムは、積極的な検疫と接触者追跡により流行を食い止めることに成功し、その結果、経済の見通しはこの地域で最も明るいものとなっています。ADBは、2021年にはベトナムがSEAの中で最も急成長している経済国の一つになると予測しており、GDPは6.8%成長が予測されています。また、産業貿易省は、世界最大手のテクノロジー企業数社が新型コロナウイルスの収束後に生産チェーンをベトナムにシフトする予定であることを報告しており、2021年には移転計画が加速するであろうと示唆しています。ベトナムのパンデミックへの対応の成功は、その戦略的立地、低賃金率、外国貿易協定と相まって、同国がアジアのサプライチェーンシフトの恩恵を受け続けること確実なものとし、この地を電子機器製造業の新たな目的地にするでしょう。

 

著者紹介

Stuart Schaag氏Stuart Schaag氏は、市場分析、事業開発、商業外交、関係構築を組み合わせた戦略を構築することで、グローバル市場でのプレゼンス拡大を求める企業を支援するE-Ward Trade Consulting LLCのプリンシパルです。それ以前は、米国商務省の国際貿易管理局で25年間、国内外の様々な役職を歴任しました。2014年から2018年まで在ハノイ米国大使館の商務参事官を務め、2020年までベトナムに駐在していました。