1990年代初頭、さまざまなスキルレベルのエンジニアたちが強力なPCを手に入れ、インターフェイスや動作を定義した再利用可能なコンポーネントのブロックやライブラリを設計し、販売を始めました。これらのブロックはIP(Intellectual Property)と呼ばれ、ICの設計に組み込まれるようになり、それは今も続いています。
IPの新市場は、新たなビジネス機会の興奮をもたらしたが、まだ未検証な技術であり、不確実性もありました。多くの駆け出しの企業が失敗しました。しかし、今日では全く違う話となっています。シリコンIPサプライヤーには、Arm社、Cadence社、Synopsys社が名を連ね、この分野の売上高は、今では初期のガレージでのスタートアップ時代とはかけ離れた年間40億ドル以上となっています。
ESD AllianceのメンバーであるCASTは、1993年からシリコンIPを提供しており、半導体産業の目覚ましい成長と共に歩んできました。CASTのCEOであるNikos Zervas氏に、IPビジネスの黎明期と今後の展望についてお聞きしました。
Smith:初期のシリコンIP業界はどんな様子でしたか。
Zervas氏:IPの西部開拓時代とでも言うべき頃は、売り手も買い手もIPから利益を得ようとしたものの、何も標準化されていませんでした。そのため、それが上手くいくかどうか試してみる以外に、手立てはありませんでした。参入障壁は低く、必要なのはRTLコーディングの技術とツール、試作用FPGA、そして数千ドルほどの投資だけだと誰もが考えており、何百ものIP企業が登場しました。
IPの提供形式、品質基準、ビジネス慣行は、ベンダーによっても、また時期によっても変化してきました。リスクは高く、欠陥のあるIPコアが原因で再設計や市場の失敗に至る悲惨なケースが多発しました。
Smith:シリコンIP市場はその時代からどのように変化したのでしょう。
Zervas氏:高品質のIPを提供し、また顧客サポートにも秀でていた企業は生き残り、それ以外は消え去りました。最終的に業界は、IPの必要条件や品質に関する妥当な共通認識と、一貫したビジネス慣習を中心にして構成されるようになりました。
SoCの成長に伴い、IP製品の複雑性が増大しました。これまでは最大級のASICでも数百万ゲート程度でしたが、現在では数億ゲートに達しており、IPのサイズも小さな機能から、多数の機能が統合されたサブシステムへと進化しています。初めのころは、画像処理IPの設計者は、FIR(有限インパルス応答)フィルターやDCT(離散コサイン変換)ブロックなどの機能を個別にライセンスしていました。今日では、これらの機能を内蔵したJPEG圧縮コアや、さらにはビデオを処理、安定化、圧縮してイーサネットでストリーミングするまでが完全にブラックボックス化されたサブシステムをライセンスしています。
IPの選択基準も変わりました。初期の180nm ASICプロセス時代のIPでは、ゲート数が数千でも小さいことが決定的に有利だったため、余分なゲートをすべて排除するように手作業で作られていました。しかし、7nmや5nmのプロセスでは、数万ゲートの違いは単なるノイズに過ぎず、IPコアの信頼性、機能性、性能が最も重要になっています。
Smith:シリコンIP市場が拡大したのはいつからですか。その原動力は何でしたか。
Zervas氏:2000年代前半から中盤までは、IPとは何か、どのように使用するのがベストなのかが明確でなく、初期のあまり優れていないプロバイダーも残っていましたが、次第に受け入れられるようになり、新たなベストプラクティスも生まれました。
2000年代後半には、スマートフォンの登場、IoTアプリケーションの急増、自動車システムの高度化などにより、IP市場が爆発的に拡大しました。実際、ESD AllianceのElectronic Design Market Data Reportによると、今日のIPライセンスによる収益は、フロントエンドEDAツールのライセンス収益を上回っています。これは、1990年代後半には想像もできなかったことです。
Smith:シリコンIPによってチップ設計はどのように変化しましたか。
Zervas氏:今日の設計者には、巨大で複雑なシステムを、短い市場投入までの時間の中で設計することが求められています。これは、高いレベルの設計の抽象化と、シリコンIPが提供する分散した専門技術がなければ不可能です。
しかしIPは、差別化の方法という課題ももたらします。誰もが同じIPを利用できる中で、市場で際立った製品を設計することができるのでしょうか。
現時点での差別化手法の答えは、巧妙なSoCアーキテクチャが中心となります。優れた性能や低消費電力など、他より優れた機能を提供するためには、個々のIPブロックの完成度ではなく、システムの要件に応じて最適なIPを選択し、それらのIPコアを統合してクリーンな通信や効率的なリソース共有を行うなど、システムレベルでの賢い判断が必要になります。これは、現代の建築設計に似ています。すべての企業が、コンクリートやガラスといった同じ材料やツールを利用していますが、優れた建築物を生み出す企業はその中の一部なのです。
Smith:IPライセンスのビジネスモデルには、前払いのライセンス料、サブスクリプション、ロイヤリティ、あるいはそれらの組み合わせなど、いくつかの異なるモデルがあるようです。今後、IP市場は一つの基本的なモデルに集約されていくと思いますか、それとも様々なモデルが混在していくのでしょうか。
Zervas氏:異なるモデルは異なるニーズに対応します。例えば、SPIインターフェイスのようなコモディティIPではロイヤリティを要求できませんが、112Gbps SERDESのようなユニークな最先端IPでは可能です。
私は、市場では今後もさまざまなビジネスモデルが存在すると考えていますが、モデルの数は減少し、条件も整い始めるでしょう。
Nikos Zervas氏について
Nikos Zervas博士は、CAST, Inc.の最高経営責任者です。2001年に画像・映像圧縮IP開発企業であるAlma Technologies社を共同設立し、CASTに参加するまでの9年間、会長兼CEOとして同社を率いてきました。また、Hellenic Semiconductor Industry Associationの創設メンバーであり、数年間にわたり同協会の役員として戦略的計画を担当してきました。IEEEのシニアメンバーであり、ギリシャのTechnical Chambersのメンバーでもあり、GSIAのIP Working Groupに貢献し、データ圧縮設計とその関連トピックに関する複数の技術論文を発表しています。
Robert(Bob)Smithは、SEMIの技術コミュニティであるESD Allianceの事務局長です。